岸辺の日記

日常のあれこれを記録します

値上げする企業は強欲なのか?

今秋に中間選挙を控え、米国のバイデン政権はなりふり構わぬ物価安定案を打ち出しています。

石油会社の利益増に対する追加課税や生産増強に向けた働きかけ、海運会社の運賃を引き上げる政策、またガソリンに対する免税措置等が報じられています。なるほどこれらの政策はたしかに物価上昇を落ち着かせる方向に働くのだろうと思います。

一方でこうした記事を読む時に違和感を覚えるのが、こうした政策案が発表される際に石油会社や海運会社が強欲と批判されることです。業界を狙い撃ちした法案だけにその正当性を訴える必要があることに加え、足元の物価上昇の原因を企業に押し付けようとする意図が感じられます。
(企業の他に物価上昇の原因はプーチン大統領とする見解も出回っています。これは一部正しいですが、ただウクライナ侵攻の前から物価は上昇していました)

さてその強欲批判の理由を確認すると「生産コストの上昇を上回る価格上昇を起こしている」というものが多いです。供給網の混乱や戦争といった出来事に乗じて企業が必要以上に価格を上昇させているのでは、というわけです。

この批判には2つの反論が考えられると思います。

1つ目は企業はその所有者(創業オーナーや株主)の意図に沿って経営されるべきで、所有者が収益還元を求める以上、高く売れる商品は高く売るのが会社側の義務ということです。会社側が社会への影響を考慮して勝手に安値販売を始めたら、一部の所有者はそれに満足するかもしれませんが、大半の所有者は安値販売に反発すると思います。これは逆に言うと所有者の意見が社会への影響を考慮することで合意されているのであれば(その場合この組織は企業というよりも社会福祉を追求する団体になるでしょう)、安値販売しても良いということになります。

2つ目は今回批判の対象となった企業が取り扱う商品(原油や海運運賃)には国際的な取引価格が存在し、企業の意思に関わらずに市場で価格が決まってしまうということです。批判される通り、これらの市場での取引価格はヘッジ需要を含んだ投機的な売買の影響もあり、生産コストとは関係なく上下してしまいます。これに対して一企業が生産コストに基づく良心的な値段を提示しても、市場に与える影響は限定的でしょう。

このように考えると値上げする企業は所有者の指示や、一企業ではどうすることもできない市場価格での取引を通じて値上げをしているわけであり、強欲との批判は当たらないと思います。強欲批判は選挙に向けた国民へのアピールと捉えるべきと考えています。

日本で物価上昇が発生した時に、米国のような強欲批判が出てくるのでしょうか?強欲批判が出ないのであれば、日銀黒田総裁が言うように「家計は値上げを容認している」ということだと思います。

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