岸辺の日記

日常のあれこれを記録します

7/23(木) チョン・ミョンフン指揮 東京フィルハーモニー交響楽団 カルメン(演奏会形式)

2026年7月23日(木) 19:00開演・サントリーホール

 

ビゼー:オペラ『カルメン』(演奏会形式)

 

指揮:チョン・ミョンフン
カルメン:ステファニー・ドゥストラック
ドン・ホセ:マシュー・ポレンザーニ
エスカミーリョ:アンドリー・キマチ
ミカエラ:スラーフカ・ザーメチニーコヴァー

 

東フィルの年間券を買った時に一番楽しみにしていた公演だったが、結果的に期待に違わぬ素晴らしい夜になった。

 

主要キャストは直近までスカラ座で出演していた面々とのことで、声楽面ではいずれもハイレベルだった。カルメン役のドゥストラックは、事前のインタビューでフランス語の発音を意識して聴いて欲しいと語っていたが、たしかにフランス語らしさを感じることができた。またホセ役とミカエラ役も好演技かつ良い声が出ていた。日本人キャストでは砂田愛梨が良かった。

 

演奏会形式のオペラは自分にとってこの日が初めてで、どのようなものかにも興味があった。演奏会形式と言っても歌手は芝居をしながら歌っていたが、その演技は伝統的なコンセプトに基づくものであり、その点は面白いとは言えなかった。ただ舞台装置がない中でレジーシアター的に攻めた演技をしても観客に伝わらない可能性が高いので、これは致し方ないと思う。

 

チョン・ミョンフンの指揮はスカラ座での公演後だけに手慣れたもので、楽譜なしで飄々と指揮していた。この脱力スタイルは長年にわたるオケとの信頼関係があってこそだと思うが、スカラ座でも同様だったのかは少し気になった。

 

これだけ豪華な演奏会を毎回続けると東フィルは財政的に破綻間違いなしだろうが、開催費用に見合った素晴らしい演奏会だった。これが来年も含まれる限り、来年も年間券は継続だと思った。

 

なお、自分が座った席の近辺でビニール袋が発する音が出たり、スタンディングオベーションをめぐるいざこざが起こったことは、とても残念だった。ビニール袋は少なくとも剥き出しの形で座席にもちこむべきでないし、スタンディングオベーションに反対する理屈が自分にはよく分からない。スマホで写真が撮りたかったのかもしれないが、その場合はカーテンコールの初期の段階で、手早く撮っておくべきだろう。

 

5/5

7/5(日) エレクトラ 新国立劇場

2026/7/5(日)14時開演・新国立劇場

 

【指 揮】大野和士
【演 出】ヨハネス・エラート

 

【クリテムネストラ】藤村実穂子
【エレクトラ】アイレ・アッソーニ
【クリソテミス】ヘドヴィグ・ハウゲルド
【エギスト】工藤和真
【オレスト】エギルス・シリンス

 

【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

 

予算をかけた新制作のオペラということで、新国立劇場も力を入れて広報活動を行っていたようだ。そうした事前情報に接してとても楽しみにしていたが、期待にたがわぬ素晴らしいオペラだった。

まず歌手陣だが、エレクトラ役のアッソーニが素晴らしかった。最終盤こそやや息切れしたように感じた(聴く側が誤解している可能性が高い)が、長丁場のオペラをしっかりと歌いきっていた。特に感心したのが声量のコントロールで、ピアニストからフォルテシモへの転換が見事だった。クリテムネストラ役の藤村(本質的なことではないが、藤村は細い体からよくあれだけの声が出るものだと、いつも感心する)やクリソテミス役のハウゲルドも、演技を含め、役割をしっかりと果たしていた。

今回もっとも素晴らしかったのが演出で、エラートが従来とは少し異なる解釈を、見事に舞台に反映していた。従来と異なると言っても原典から逸脱したものでなく、根拠はしっかりとテキストに記載されている。また役者の細かい演技にも背景があるはずであり、それらについて考えることも楽しいことだ。

エラートが提示した論点についてあれこれ考えながら、帰路についた。新国立劇場にはこうした現代的な演出のオペラをもっと多く上演するよう期待したい。

満足度5/5

6/23(火) 上岡敏之指揮 読売日本交響楽団 田部京子

6/23(火)19時開演・サントリーホール

 

グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 Op. 16
ショスタコーヴィチ:交響曲第8番 ハ短調 Op. 65


指揮:上岡敏之
ピアノ:田部京子
読売日本交響楽団

 

前半のグリーグの田部は、前日の朝に本来の出演者(ホアキン・アチュカロ)が転倒して出演不可になったため、緊急登板という形での出演だった。田部は2018年にこの曲を録音したことがあったとはいえ、突然の事態であり、準備不足な面はあったに違いない。それにも関わらず見事に弾き切ったことに驚いた。プロの仕事を見せてくれたことに対し、敬意を表したい。

この日はかなり前方の左側という、あまりよくない席に座っていたため、自分の席からはピアノとオケの音のバランスが悪かった(ピアノがオケにかき消される箇所があった)。ただその分だけ指揮者と独奏者のやり取りがよく見えたのだが、上岡は演奏全体をうまく管理していたように思う。

 

後半のショスタコーヴィチが素晴らしかった。この曲を集中して聴くのは今回が初めてだったが、良い曲だと思ったし、曲の良さを上岡がうまく引き出していた。

作曲者の指示に従って正確に演奏するだけで、この曲の良さはある程度は引き出すことができるだろう。ただそれには演奏技術が必要で、この日の読響にはそれがあった。また作曲者の意図に沿って音をバランスよく引き出すために指揮者が必要で、上岡はその役割をこなしていた。

この日の読響と上岡は、優れた芸術性や独自性を披露したわけではなかったと思うが、いわば職人のように、求められる水準の演奏を見事に提供した。これだけ長大な曲において、これは大変なことだと思う。見事な成果を挙げた上岡に対してソロカーテンコールがあったが、これは当然だ。自分も大興奮し、ソロカーテンコールでの拍手を送った。

 

金管が活躍する曲だからか、吹奏楽部に所属する中高生と思しき人が目についた。終演後の会話が聞こえてきたが、彼らの多くが興奮していたようだった。多感な時期にこの曲のライブに接することができる幸運を羨ましく思った。彼らを引率されていた先生方も、素晴らしい仕事をしていたと言える。

 

満足度5/5

6/19(金) ペッカ・クーシスト指揮 東京都交響楽団

6/19(金)19時開演・サントリーホール


シベリウス:組曲『恋人』 Op. 14
アンデシュ・ヒルボリ:バッハ・マテリア(2017)[日本初演]
アンドレア・タッローディ:きりん座(2011)[日本初演]
シベリウス:交響曲第5番 変ホ長調 Op. 82


指揮&ヴァイオリン:ペッカ・クーシスト
東京都交響楽団

 

前半のシベリウスは初めて聴いた曲だったが、美しい曲だった。こうした曲に出会えるのも、コンサートに行く醍醐味だろう。現代曲の「バッハ・マテリア」もユニークな曲で、ただ現代曲にありがちな煙に巻く感覚はなく、面白かった。ジャズの要素が盛り込まれたり、独奏者(クーシスト)が歌ったり口笛を吹きながら演奏するなどしていた。独奏者が歌うのは3月の成田以来だが、これは最近の流行なのだろうか。これも自分は好意的に受け止めている。

 

後半の現代曲「きりん座」はバッハ・マテリアほどの印象は残さなかったが、ただこうした曲が演奏されることはアリだと思う。そして最後のシベリウスがこの日の白眉で、シベリウスがあまり得意でない自分にもその魅力が伝わる、素晴らしい演奏だった。クーシストの生み出すメリハリが、シベリウスの魅力を伝えてくれたのだろうか。

 

アーティスト・イン・レジデンスへの就任に伴い、クーシストと都響が今後協働する機会が増えるのだろうが、そのことが楽しみになる演奏会だった。前日のズーカーマンと好対照で、今日のクーシストはオケを自分の理想とする方向に導き、それにオケが応えていたように思う。この日のようにフィンランドの現代作曲家の作品が、今後紹介されることも楽しみだ。

 

満足度5/5

6/18(木) ピンカス・ズーカーマン指揮 東京フィルハーモニー交響楽団

6/18(木)19時開演・サントリーホール

 

モーツァルト:
  オペラ『フィガロの結婚』序曲
  ヴァイオリン協奏曲第3番
  交響曲第40番

 

指揮&ヴァイオリン:ピンカス・ズーカーマン

東京フィルハーモニー交響楽団

 

冒頭のフィガロの結婚序曲は淡々とした演奏で、オケからもう少し熱を引き出しても良い気がした。自分の好みとは違うが、ただこれはこれで良い演奏だったと思う。何よりも曲が良い。この曲が流れただけで、高揚感を感じる。


前半のメインであるヴァイオリン協奏曲はズーカーマンの弾き振りだったが、これは指揮か独奏のどちらかに集中した方が良かったと思う。独奏では同氏の美しい音色が楽しめたが、第一楽章の初めの方では硬さを感じた。オケはメリハリがなく、これは指揮者不在の弊害だったように思う。ズーカーマンがヴァイオリニストとして素晴らしい腕を持っていることは分かったが、指揮者としては疑問を抱かざるをえない。

 

後半の交響曲40番は名曲中の名曲で、誰が指揮しても様になる曲だと思う。それせいか、ズーカーマンならではの良さを感じることはなかった。淡々と進めていくのもこの曲の味なのかもしれないが、もう少し思いを込めた演奏であっても良かったと思う。

 

2/5(モーツアルトのプログラムでなかったと思うと恐ろしい…)

6/16 小林研一郎指揮 読売日本交響楽団 牛田智大

6/16(火)19:00開演・サントリーホール

 

ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op. 21
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 Op. 64

 

指揮:小林研一郎
ピアノ:牛田智大
読売日本交響楽団

 

前半のショパンで、牛田は正確な打鍵を披露していたが、ショパンで楽しみたい軽やかさや余裕が欠けているように感じた。ただこれは前方の席で聴いており、ピアノの音が明瞭に聴こえすぎたことが、原因かもしれない。その他の細かい気づきとしては、低音を響かせる演奏上の工夫が自分には新鮮だった。これは演者の個性なのか、席に起因するのか、今後確認したい。

 

後半のチャイコフスキーは指揮が機能していないように感じた。名曲ゆえに指揮なしでもある程度は演奏できるのだろうし、これまで何度となく共演してきたのであろう関係性もあるのかもしれないが、指揮者がオケの能力をフルに引き出した時にどのような演奏になったのかも、興味深い。

 

また同じ大ベテランでもブロムシュテットと小林で、年齢を重ねることに対する自分の感じ方が違う点も、その理由が気になった。直近のブロムシュテットのコンサートは宗教曲であったのが、老害的なものを感じなかった要因なのだろうか。


3/5

 

 

6/14 ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮 NHK交響楽団 コンラッド・タオ

6/14(日)14時開演・NHKホール

 

ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」 前奏曲
モーツァルト/ピアノ協奏曲 第17番 ト長調 K. 453
バルトーク/管弦楽のための協奏曲

 

指揮 : ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン
ピアノ : コンラッド・タオ

 

ズヴェーデンの指揮を聴くのは初めてだったが、曲の魅力を引き出す良い指揮だった用に思う。マイスタージンガー前奏曲は、この曲はN響にとっても慣れたもので、同氏の指揮のおかげというわけでもないだろうが、ワーグナーらしさを堪能できた。

 

この日もっとも素晴らしかったのは、正直あまり期待していなかったモーツアルトで、コンラッド・タオの演奏が素晴らしかった。モーツアルトの音楽はともすると平板になりがちだが、この日のタオの演奏は、モーツアルトから熱狂を引き出すのに成功していたように思う。この人がモーツアルト以外を演奏するとどのような演奏になるのか、今後がとても楽しみだ。

 

ズヴェーデンの良さを堪能できたのはバルトークで、N響の巧さも手伝ってのことだと思うが、素晴らしい演奏だった。ズヴェーデンはアジアのオーケストラとの共演が多いとのことで、N響との相性も良かったのではないか。N響への出演は初めてだったようだが、今後もこの組み合わせを聴いてみたいと思わせる演奏だった。

 

いつもは演奏後のソロカーテンコールに疑問を感じることの多い自分だが、今日のズヴェーデンのソロカーテンコールには納得だ。

 

満足度4/5